請求書の電子化というと、まずサービスを選ぶ話から考えたくなるかもしれません。ただ、その前に確かめておくと判断が変わることがあります。電子帳簿保存法の検索要件は、条件を満たす会社では満たさなくてよいとされています。売上規模や、税務調査の際にデータと出力書面を出せるかどうかで、必要な備えが変わります。
この記事は、国税庁の一問一答(令和7年6月版)から、請求書を電子でやり取りするときに実際に求められることを整理します。発行と受取の手順に加えて、要件が緩和された部分と、緩和されない部分を分けて書きます。
電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁、令和7年6月)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/03-6.pdf
電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】(国税庁、令和7年6月)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/03-4.pdf
確認日:2026年9月12日
制度は改定されるため、実務にあたっては最新版をご確認ください。
紙をやめる前に、何が義務なのかを分けておく
請求書まわりの電子化には、性質の違う3つの話が混ざっています。分けておかないと、やらなくてよいことに手間をかけることになります。
- 電子取引データの保存(義務):メールやクラウドで受け取った請求書は、電子データのまま保存しなければなりません。紙に出力したものを保存の代わりにすることはできません(後述する猶予措置でも、電磁的記録の保存そのものは免除されません)
- スキャナ保存(任意):紙で受け取った請求書をスキャンしてデータで保存する制度です。紙のまま保管し続けてもかまいません
- 発行のペーパーレス化(任意):印刷・封入・郵送をやめる話で、法律上の義務ではありません
義務なのは1つ目だけです。2つ目と3つ目は手間とコストの問題で、期限に追われる話ではありません。
電子取引データの保存で求められること
取引先からPDFで請求書を受け取った、クラウドサービス上で受け取った、EDIで受け取った——いずれも電子取引にあたります。保存にあたっては、大きく2種類の要件があります。
真実性の確保——4つのうち、どれか1つを満たす
データがあとから書き換えられていないことを担保するための要件です。一問一答は、次の4つを挙げています(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項第1号〜第4号)。
- タイムスタンプが付された後の授受
- 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
- データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用して、授受及び保存を行う
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け
4つすべてではなく、どれか1つを満たせば足ります。4号の事務処理規程は、社内でルールを定めて運用する方法で、タイムスタンプの費用はかかりません。
3号を選ぶときは、条文が「授受及び保存を行う」としている点に注意してください。やり取りと保存の両方をそのシステム上で行うことが求められます。メールでPDFを受け取ってから、訂正削除の記録が残るクラウドに保存する、という運用では授受がそのシステム上で行われていないため、3号では足りません。この場合は4号の事務処理規程などで手当てすることになります。
「電帳法対応にはタイムスタンプが要る」と読める説明を見ることがありますが、条文上は4つの選択肢のひとつです。
可視性の確保——検索できる状態にする、ただし例外がある
もうひとつが、取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにしておく要件です。検索機能は3つに分かれています。記録項目で検索できる機能、範囲を指定して条件を設定できる機能、そして項目を組み合わせて条件を設定できる機能です。
一問一答の問50は、これを満たす方法として次を挙げています。
- 日付、金額、取引先などの記録項目を、ファイル名や索引簿により整理する方法
- 表計算ソフトなどを用いて、簡易的な検索機能を備えた管理台帳を作成する方法
- クラウドサービスを利用して、検索機能を備えた保存システムを構築する方法
専用のシステムがなくても、ファイル名の付け方と索引簿で要件を満たせるということです。
検索要件そのものが軽くなる場合がある
同じ問50は、要件が軽くなる2段階を示しています。
- 一部が不要:税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合、範囲を指定して条件を設定できる機能と、項目を組み合わせて条件を設定できる機能の確保は不要になります
- 全部が不要:判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者、または電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしている事業者は、すべての検索機能の確保の要件が不要になります(問50の注)。この場合も、電磁的記録そのものの提示・提出の求めに応じられることが前提です(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項ただし書)
売上高の条件に当てはまらない会社でも、日付と取引先ごとに整理した出力書面を出せるようにしておけば、検索要件そのものが不要になります。「整理されたもの」という限定が要で、ただ印刷して積んでおくことではありません。書面の整理の仕方は問52、売上高の判定方法は問51で説明されています。
ここからは筆者の見解です
この2つを踏まえると、請求書の受取件数が月に数件という会社が、検索機能のために専用サービスを契約する必要は薄いと考えています。
実務的には、受け取ったPDFを「日付_取引先_金額」の形でファイル名を付けて1つのフォルダに入れ、ダウンロードの求めに応じられるようにしておけば形になります。件数が増えて手作業が破綻する時点が、サービスを検討する時点です。制度がツールを要求しているわけではありません。
要件を満たせない場合の猶予措置
令和6年1月1日以後に行う電子取引については、猶予措置が置かれています。税務署長が「要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由がある」と認める場合で、かつ電磁的記録と、それを整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面の提示・提出の求めに応じることができるようにしているときは、保存時に満たすべき要件によらずに保存することができます。
注意したい点が2つあります。
ひとつは、電磁的記録そのものの保存は免除されないことです。免除されるのは保存時に満たすべき要件であって、「紙で出力して保存しておけばよい」という意味ではありません。
もうひとつは、「相当の理由」があるかどうかを認めるのは税務署長だという点です。どのような場合が相当の理由に当たるかは一問一答の問83で説明されています。自社が該当するかは、この措置をあてにする前に原典で確かめてください。
紙で受け取った請求書——スキャナ保存の要件は減っている
紙の請求書をスキャンしてデータで保存する場合は、スキャナ保存の要件に沿うことになります。この要件は令和5年度税制改正で減りました。古い説明が残っている記事が多い部分です。
一問一答【スキャナ保存関係】(令和7年6月)の問1によれば、廃止・限定されたのは次の点です。
- 「スキャナで読み取った際の解像度、階調及び大きさに関する情報の保存時に満たすべき要件が廃止されたこと」
- 「国税関係書類に係る記録事項の入力者等に関する情報の確認要件が廃止されたこと」
- 「相互関連性要件について、〔中略〕相互にその関連性を確認することができるようにしておくこととされる書類が、契約書・領収書等の重要書類に限定されたこと」
3つ目は、相互関連性の要件がなくなったという意味ではありません。帳簿との関連性を確認できるようにしておく対象の書類が、重要書類に絞られたということです。
読み取りそのものの条件は残っています。問5は、解像度について「スキャニング時の解像度である25.4ミリメートル当たり200ドット以上で読み取るものであること」、色について「赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上で読み取るものであること」としています。つまり請求書のような重要書類では、200dpi以上のカラーであることが必要です。
スキャナがなくてもよい
入力装置は専用機である必要がありません。同じ問5は、書面の国税関係書類を電磁的記録に変換する入力装置を「スキャナ」としたうえで、「また、例えば、スマートフォンやデジタルカメラ等についても、上記の入力装置に該当すれば、『スキャナ』に含まれることになります」としています。
ただし、スキャナに含まれることと、読み取りの条件を満たすことは別です。撮影した画像も、書類の大きさと画素数から計算して200dpi以上・256階調以上である必要があります。
電子帳簿保存法の全体像は電子帳簿保存法とは?3つのルールと義務化の内容、対応の手順は電子帳簿保存法の実務対応で扱っています。
請求書の発行をペーパーレスにする
発行側の電子化は義務ではありませんが、印刷・封入・郵送の手間と費用がそのまま消えます。効果を見積もるなら、次のように自社の数字で計算するのが確実です。
- 1通あたりの用紙・封筒・インクの実費
- 郵便料金(日本郵便の料金表で確認する)
- 封入・投函にかかる作業時間 × 人件費の時間単価
- これに月間の発行通数を掛ける
一般的な相場を持ってくるより、自社の通数で出した金額のほうが、社内の意思決定には通りやすくなります。
すでに会計ソフトを使っているなら、まずそこを見る
クラウド会計には請求書の作成・送付機能が含まれていることが多く、その場合は追加のサービスを契約しなくても発行を電子化できます。会計ソフトの選び方はクラウド会計ソフトの比較で扱っています。
取引先に電子での受け取りを打診する
発行をデータに切り替えるには、相手先の同意が要ります。「電子帳簿保存法への対応のため」という理由を添えると、背景が伝わりやすくなります。一気に切り替えず、当面は紙とデータのどちらにも対応できる形にしておくと、相手の準備が間に合います。押印やFAXまで含めた切り出し方は脱ハンコ・脱FAXの進め方で扱っています。
インボイス制度との関係
2023年10月から、仕入税額控除を受けるには原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要になりました(免税事業者等からの仕入れに係る経過措置や少額特例など、例外もあります)。電子化とあわせて検討することもあるテーマですが、両者は別の制度です。
- インボイス制度:請求書に何を書くか(登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額等)の話
- 電子帳簿保存法:受け取った・作成したデータをどう保存するかの話
電子でやり取りしたインボイスは、電子取引データとして保存することになります。記載事項そのものについてはインボイス制度の基礎で扱っています。
着手する前のチェックリスト
- 電子で受け取っている請求書が、いま紙に出力して保存されていないか
- 基準期間の売上高が5,000万円以下かどうかを確認したか
- 売上高の条件に当てはまらない場合、日付と取引先ごとに整理した出力書面を出せる状態か
- ダウンロードの求めに応じられる形でデータを置いているか
- 真実性の確保を、4つの選択肢のどれで満たすか決めたか
- 事務処理規程で対応する場合、規程を作って運用と備付けまで済ませたか
- 請求書などの重要書類をスキャンする場合、200dpi以上・256階調以上のカラーで読み取れているか
- 発行の電子化について、自社の通数でコストを計算したか
- 取引先への切り替えに、並行期間を設けたか
まとめ
義務なのは電子取引データを電子のまま保存することで、スキャナ保存も発行の電子化も任意です。保存の要件のうち真実性の確保は4つの選択肢があり、事務処理規程を使えば費用はかかりません。検索要件は、基準期間の売上高が5,000万円以下の場合や、日付と取引先ごとに整理した出力書面を提示・提出できる場合には不要とされています。いずれもダウンロードの求めに応じられることが前提です。
スキャナ保存の要件は令和5年度税制改正で減り、解像度・階調・大きさに関する情報の保存と、入力者等情報の確認は廃止されました。スマートフォンやデジタルカメラも「スキャナ」に含まれます。ただし読み取りの条件は残っているので、請求書のような重要書類では200dpi以上・256階調以上で読み取る必要があります。
要件から逆算すると、小規模な会社ほど買う必要のあるものは少なくなります。ツールを検討するのは、件数が増えて手作業が回らなくなってからで間に合います。ペーパーレス化を含むDX全体の予算の組み方は中小企業のDX予算はいくら必要か、ソフトウェア導入に使える補助金はデジタル化・AI導入補助金2026とは?(旧IT導入補助金)からの変更点と申請手順で扱っています。
