「ものづくり補助金をDX投資に使えないか」と考えている方もいるかもしれません。2026年度は、新たに「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の公募が始まっていて、第1回の応募締切は2026年10月30日18時です。
この補助金の「革新的新製品・サービス枠」は、従来のものづくり補助金と同じく、既存の製品・サービスの生産等のプロセスについて改善・向上を図る事業を補助対象外と定めています(公募要領p.6)。業務効率化を目的にしたシステム投資は、この規定に当たるおそれがあります。事務用のパソコンやタブレット、文書作成ソフトウェアも、対象外経費の例として挙げられています(p.32)。
この記事は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領を原典から読み、DX投資・IT投資の観点で「何が対象になり、何がならないか」を整理したものです。従来のものづくり補助金(第23次)から変わった点も、あわせて示します。制度は改定されるため、申請の際は必ず最新の公募要領をご確認ください。
出典:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回・1.3版、2026年9月28日改訂)
確認日:2026年10月10日
本記事の数値・要件は、特記のない限り第1回公募要領に基づきます。ページ番号は同公募要領のものです。申請前に公式サイトで最新版をご確認ください。
この補助金は何を支援する制度か
補助の枠は、次の3つです(p.6〜9)。
- 革新的新製品・サービス枠:革新的な新製品・新サービスの開発
- 新事業進出枠:既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出
- グローバル枠:輸出に向けた、国内の体制強化
公式サイトでは、従来のものづくり補助金や中小企業新事業進出補助金とは別の補助金と案内されています。従来のものづくり補助金は、2026年10月10日時点で、第23次締切(2026年5月)より後の公募が公式サイトに掲載されていません。DX投資との関係で中心になるのは革新的新製品・サービス枠なので、この記事は主にこの枠を扱います。
スケジュール(2026年10月時点)
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募開始 | 2026年6月29日(月) |
| 申請受付開始 | 2026年9月30日(水) |
| 応募締切 | 2026年10月30日(金)18:00 |
| 採択発表 | 2027年1月ごろ(予定) |
出典は公募要領p.37です。締切当日は申請が集中するおそれがあるため、電子申請は余裕をもって始めてください。第2回以降の日程は、公式サイトで確認してください。
補助上限額と補助率
| 従業員数 | 補助上限額(賃上げ特例を適用した場合) |
|---|---|
| 1〜5人 | 750万円(850万円) |
| 6〜20人 | 1,000万円(1,250万円) |
| 21〜50人 | 1,500万円(2,500万円) |
| 51人以上 | 2,500万円(3,500万円) |
表は革新的新製品・サービス枠のもので、補助下限額は100万円です。補助率は、中小企業者が2分の1(地域別最低賃金引上げ特例を受ける場合は3分の2)、小規模企業者・小規模事業者と再生事業者が3分の2です(p.6)。
新事業進出枠とグローバル枠は、補助下限額が750万円、補助上限額が従業員規模に応じて2,500万〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円)です。補助率は新事業進出枠が2分の1(特例で3分の2)、グローバル枠が3分の2です(p.8〜9)。
上限額と、実際に受け取れる額は別のものです
補助金の記事では上限額が見出しに置かれますが、実際に受け取れる額は「補助対象経費 × 補助率」と「上限額」の小さいほうです。上限額に届くには、それ相応の投資が必要になります。
従業員10名の企業が革新的新製品・サービス枠に申請する場合を考えます。上限額は1,000万円、補助率は2分の1です。上限いっぱいの1,000万円を受け取るには、補助対象経費が2,000万円必要です。1,000万円の投資であれば、補助額は500万円になります。
さらに消費税は補助対象外です。税込2,200万円(税抜2,000万円)の投資をした場合、補助の計算に乗るのは税抜の2,000万円であり、消費税200万円は全額が自己負担です。この例では、投資総額2,200万円に対して補助金1,000万円、自己負担1,200万円という配分になります。「半額が補助される」という感覚とは差が出ます。
「既存プロセスの改善」は対象外と明記されています
ここがこの記事の中心です。第1回公募要領は、革新的新製品・サービス枠について、既存の製品・サービスの生産等のプロセスについて改善・向上を図る事業は補助対象外である、と定めています。あわせて、単に機械装置・システム等を導入するにとどまり、新製品・新サービスの開発を伴わないものは補助対象事業に該当しない、とも書かれています。さらに、同業の中小企業者等で既に相当程度普及している新製品・新サービスの開発も該当しません(いずれもp.6)。
なお公募要領に「DX」「業務効率化」という語で対象外を規定した箇所はありません。以下は、この規定を一般的なIT投資に当てはめた場合の整理です。
受発注のシステム化、紙の帳票の電子化、在庫管理の自動化、勤怠の集計といった投資は、既存業務のプロセス改善にあたります。生産性を上げる取り組みではありますが、公募要領の定義では「新製品・新サービスの開発」に当たりません。設備やシステムを入れること自体が目的の申請は、この枠の対象から外れます。
在庫管理のデジタル化について、費用の決まり方と、デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)の通常枠で申請する場合に確認する規定は在庫管理をデジタル化する方法を整理したページで扱っています。
「汎用性があり、目的外使用になり得るもの」は対象外
補助対象外経費の一つに「汎用性があり、目的外使用になり得るもの」があり、その例として次の品目が挙げられています(p.32)。
- 事務用のパソコン、プリンタ、文書作成ソフトウェア
- タブレット端末、スマートフォン、デジタル複合機
- カメラ、書籍、家具家電
列挙されているのはあくまで例示であり、判断の基準は「汎用性があり、目的外使用になり得るか」です。逆に言えば、同じ端末でも新サービスの提供に専用で組み込む形であれば、直ちに対象外と決まるわけではありません。ただしその場合は、専用性を事業計画で説明できることが前提になります。
このほか、不動産の購入費、自動車等の車両、消費税等の公租公課、通信費(クラウドサービス利用費に含まれる付帯経費を除く)、各種保険料、支払利息、振込手数料なども対象外です(p.32〜33)。建物費は、新事業進出枠とグローバル枠では対象になりますが、革新的新製品・サービス枠では対象になりません(p.28)。
IT投資の入口に置かれるものが、ほぼそのまま並んでいます。事務用の端末を配って汎用の業務ソフトを入れる、という形の投資は、この原則に照らすと対象になりません。
新制度ではもう1つ、既存事業に活用する経費や、既存事業と補助事業で共用する経費も対象外と明記されています(p.32)。冒頭の注意事項でも、補助事業で取得した財産を既存事業で使った場合は目的外の使用にあたり、残存簿価相当額などを納付する必要があるとしています(p.1)。会社全体の業務に使うシステムは、この点でも条件に合いにくくなります。
「専用」であることが条件です
革新的新製品・サービス枠では、「機械装置・システム構築費」の計上が必須です。この費目は、専ら補助事業のために使用される機械装置等や、専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築・借用に要する経費です(p.27)。
対象になる機械装置等は単価10万円(税抜き)以上で、既存の機械装置・システムを単に置き換える経費は対象外です。100万円(税抜き)以上のシステム構築費を計上する場合は、実績報告の際に要件定義書などの提出が必要です(いずれもp.28)。
「専ら本事業のために使用される」「専用」という条件は、汎用のクラウドサービスを月額契約で使う形とは相性がよくありません。公募要領がサービス名を挙げて判断を示しているわけではありませんが、会計ソフトや勤怠管理ツールのように契約すれば誰でも同じ機能を使えるサービスを「その事業のための専用システム」として説明するのは、容易ではないと考えられます。
では、何なら対象になりうるのか
ここからは筆者の見解です。公募要領の定義に照らすと、この補助金でシステム投資が通る形は、ソフトウェアが新製品・新サービスそのものの一部になっている場合だと考えられます。自社が販売する製品に組み込む制御ソフトウェアを開発する、新しく始めるサービスを提供するための専用プラットフォームを構築する、といった形です。この場合、システムは業務を効率化する道具ではなく、顧客に提供する価値そのものの構成要素になります。
逆に言えば、社内の業務改善を目的にした投資をどれだけ丁寧に説明しても、枠の定義に合致させることは難しいと考えられます。この場合は、後述する別の制度を検討するほうが筋が通ります。
クラウドサービス利用費の扱い
クラウドサービス利用費は補助対象経費に含まれますが、条件があります。専ら本事業のために利用するクラウドサービスやWEBプラットフォームの利用費のみが対象であり、契約期間が補助事業実施期間を超える場合は、按分等の方式で算出した補助事業実施期間分のみが対象になります。
年間契約を結んでも、補助事業実施期間に重なる分しか補助の対象になりません。クラウドサービスは契約が続く限り費用が発生し続けるものですが、補助されるのは実施期間分のみで、その後の利用料は自己負担です。ランニングコストを補助金で賄う設計はできません。
また、自社の他事業と共有するクラウドサービスは補助の対象にならず、パソコン・タブレット端末・スマートフォンなどの本体費用も対象外です(p.30)。
基本要件と、達成できなかった場合の返還
採択されれば終わりではありません。補助事業終了後3〜5年の事業計画で、次の要件をすべて満たす必要があります(p.11〜14)。
- 付加価値額:年平均成長率4.0%以上の増加
- 従業員1人当たり給与支給総額:年平均成長率3.5%以上の増加。目標値は、交付申請までに全従業員等に表明する
- 事業場内最低賃金:地域別最低賃金より30円以上高い水準を毎年保つ
- 一般事業主行動計画:次世代育成支援対策推進法にもとづく計画を策定し、「両立支援のひろば」で公表する(従業員数による区別はありません)
- 子育て等の職場環境整備:ライフデザインサービスの活用、家事代行・ベビーシッターサービスの活用、既存制度の周知のうち1つに取り組む(くるみん等の認定がある場合は免除)
- 金融機関から資金提供を受ける場合は、その金融機関による事業計画の確認
給与の目標値を表明していなかった場合は、補助金の全額返還です。目標が未達だった場合は、補助金交付額に「1 −(最終年度の年平均成長率 ÷ 目標値)」を乗じた額の返還を求められます。事業場内最低賃金が基準に届かなかった年は、補助金交付額を事業計画期間の年数で割った額の返還を求められます(p.12〜13)。
ただし、付加価値額が増加しておらず、かつ営業利益が赤字の場合や、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合には、一部返還を求めないとされています(p.12〜13)。
事業計画期間は補助事業終了後3〜5年で、申請者が選択します。この期間にわたって賃上げを続ける前提で計画を立てる必要があります。補助金の額だけでなく、人件費の増加を織り込んだうえで採算が合うかどうかが、実質的な判断材料になります。
審査では、補助事業の完了を待たずに行う「足下の賃上げ」も評価されます。直近の事業年度から基準年度までの1人当たり給与支給総額の伸びが物価上昇率を下回る場合は、審査上大幅に不利になると書かれています(p.44)。
対象外になる事業者・事業
要件以前に、申請そのものができない類型があります。
- 大企業が株式の2分の1以上を保有するなどの「みなし大企業」(p.22)
- 申請締切日から16か月以内に、事業再構築補助金、新事業進出補助金、ものづくり補助金、この補助金のいずれかで採択された事業者(p.21)
- 過去3年間に、事業再構築補助金、新事業進出補助金、ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者(p.24)。1回受けている場合は審査で減点されます(p.50)
- 応募申請時点で従業員が0名の事業者(p.22)
- 補助事業の主たる内容を他者へ外注・委託する事業(p.25)
- 国庫からの二重受給となる事業、事業計画の重複(p.25〜26)。同じ事業者からの申請は1回の公募につき1件まで(p.10)
「主たる内容を他者へ外注・委託する事業」は、システム開発を伴う申請では注意が要る項目です。外注費には、補助対象経費総額(税抜き)の4分の1という上限も設定されています(p.29)。開発を全面的に外部に任せる計画は、この上限と、主たる内容の外注にあたらないことの両方を説明できる必要があります。
補助事業実施期間
革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月以内(ただし採択発表日から12か月以内)です(p.7)。新事業進出枠とグローバル枠は、交付決定日から14か月以内(ただし採択発表日から16か月以内)です(p.8〜9)。この期間内に発注・納品・支払いまでを終える必要があります。
システム開発を伴う事業では、この期間設定が制約になります。要件定義から開発、検収までを10か月に収める前提で計画を組むことになるためです。
従来のものづくり補助金(第23次)から変わった点
第23次の公募要領と、新制度の第1回公募要領を比べると、次の点が変わっています。
| 項目 | ものづくり補助金(第23次) | 新制度(第1回) |
|---|---|---|
| 中心になる枠 | 製品・サービス高付加価値化枠 | 革新的新製品・サービス枠(上限と補助率は同じ水準) |
| 付加価値額の要件 | 年平均3.0%以上 | 年平均4.0%以上 |
| 一般事業主行動計画 | 従業員21名以上の場合 | 全申請者 |
| 子育て等の職場環境整備 | なし | 必須 |
| 設備投資の条件 | 単価50万円以上の設備投資が必須 | 機械装置・システム構築費が必須(対象は単価10万円以上) |
| 外注費の上限 | 補助対象経費の2分の1 | 4分の1 |
| グローバル枠 | 上限3,000万円・下限100万円 | 上限2,500万〜9,000万円・下限750万円・補助率3分の2 |
省力化投資補助金・デジタル化・AI導入補助金との使い分け
業務効率化やITツールの導入が目的であれば、別の制度のほうが適合します。
| 制度 | 何を支援するか | DX・IT投資との相性 |
|---|---|---|
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(革新的新製品・サービス枠) | 革新的な新製品・新サービスの開発 | 製品・サービスの一部となるシステムのみ |
| 省力化投資補助金(一般型) | 人手不足の解消につながる省力化投資 | 専用設計の機械装置が必須。汎用SaaSのみでは要件を満たさない |
| デジタル化・AI導入補助金 (旧:IT導入補助金) |
登録されたITツールの導入 | 汎用の業務ソフト導入に最も近い |
省力化投資補助金についてはこちらで詳しく整理しています。省力化投資補助金(一般型)はDX投資に使えるか|第8回公募の対象経費と自己負担額。単価50万円以上の専用設計された機械装置が必要になる点で、こちらもソフトウェア中心の投資とは条件が合わない場面があります。
IT導入補助金は2026年からデジタル化・AI導入補助金に名称が変わっています。変更点と申請手順はデジタル化・AI導入補助金2026とは?旧IT導入補助金からの変更点と申請手順で整理しています。補助金全体の見取り図は中小企業が使える補助金・助成金まとめを、補助金を前提としない予算の考え方は中小企業のDX予算はいくら必要かをご覧ください。
申請を検討する前のチェックリスト
- その投資は、新製品・新サービスの開発を伴うか。既存業務の効率化だけになっていないか
- 導入するソフトウェアは、自社の新しい事業のための専用のものか。汎用サービスの契約になっていないか
- 既存事業と共用する経費や、「汎用性があり、目的外使用になり得るもの」(事務用のパソコン、タブレット、複合機、文書作成ソフト等)が混ざっていないか
- 消費税を除いた金額で、必要な自己負担額を計算したか
- 付加価値額 年平均4.0%以上、1人当たり給与支給総額 年平均3.5%以上の計画にしても採算が合うか
- 事業場内最低賃金を、地域別最低賃金より30円以上高い水準に保てるか
- 一般事業主行動計画を公表済みか。子育て等の職場環境整備の取り組みを1つ選べるか
- 開発を全面的に外注する計画になっていないか。外注費は補助対象経費総額(税抜き)の4分の1以内か
- 補助事業実施期間(革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月)内に、支払いまで完了できるか
- 過去3年間の交付決定の回数と、16か月以内の採択の有無を確認したか
まとめ
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の革新的新製品・サービス枠は、補助上限額が従業員規模に応じて750万円から2,500万円(賃上げ特例で最大3,500万円)、補助率は原則2分の1(小規模事業者等は3分の2)の制度です。ただし対象は革新的な新製品・新サービスの開発であり、既存の生産プロセスの改善・向上を図る事業は補助対象外と公募要領に明記されています。
事務用のパソコン、タブレット、複合機、文書作成ソフトウェアなどの汎用品に加えて、既存事業と共用する経費も対象外です。業務効率化のみを目的としたIT投資は、この枠の設計に合いません。
第1回の応募締切は2026年10月30日18時です。まず自社の投資が「新製品・新サービスの開発」に該当するかを見極めることが出発点になります。該当しないのであれば、省力化投資補助金やデジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)を検討するほうが、時間の使い方として合理的です。
出典
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回・1.3版、PDF・2026年9月28日改訂)
- ものづくり補助金総合サイト(第23次との比較に使用)