省力化投資補助金には「カタログ注文型」と「一般型」の2つがあります。カタログから選ぶだけで申請できる手軽な制度と、自由度の高い制度、という整理をされることがありますが、実際に分かれているのはそこではありません。補助上限額は一般型が最大8,000万円(大幅賃上げの特例適用時は1億円)に対してカタログ注文型は1,000万円、申請方法もカタログ注文型は販売事業者との共同申請が必須です。そして、ソフトウェア中心のIT投資という観点では、どちらの型も要件を満たしません。ただし、その理由は型によって異なります。
この記事は、中小企業省力化投資補助事業の「カタログ注文型」公募要領と「一般型」公募要領(第8回)を原典から読み、両者の違いを整理したものです。補助上限・要件・申請方法・実施期間のどこがどう違うのか、そして自社の投資がどちらに当てはまるのかを判断できるようにすることを目的にしています。制度は改定されるため、申請の際は必ず最新の公募要領をご確認ください。
中小企業省力化投資補助事業(カタログ注文型)公募要領 令和8年3月19日版
https://shoryokuka.smrj.go.jp/assets/pdf/application_guidelines_catalog.pdf
中小企業省力化投資補助事業(一般型)公募要領 第8回公募
https://shoryokuka.smrj.go.jp/assets/pdf/application_guidelines_ippan_08.pdf
確認日:2026年9月12日
本記事の数値・要件はすべて上記の公募要領に基づきます。改定される可能性があるため、申請前に公式サイトで最新版をご確認ください。
2つの型は何が違うのか
省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業の省力化投資を支援する制度です。同じ名前の下に、性質の異なる2つの型があります。
- カタログ注文型:事務局が公開しているカタログに登録された汎用製品から選んで導入する。中小企業と販売事業者が共同で申請する
- 一般型:自社の課題に合わせて設備を選定し、事業計画を作って申請する。単独で申請できる
カタログ注文型では、申請する中小企業は事務局が公開しているカタログの中から製品を選ぶことになります。裏を返せば、カタログに登録されていない製品は対象になりません。
補助上限額と補助率
| 従業員規模 | カタログ注文型 | 一般型 |
|---|---|---|
| 5人以下 | 500万円(750万円) | 750万円(1,000万円) |
| 6〜20人 | 750万円(1,000万円) | 1,500万円(2,000万円) |
| 21〜50人 | 1,000万円(1,500万円) | 3,000万円(4,000万円) |
| 51〜100人 | 5,000万円(6,500万円) | |
| 101人以上 | 8,000万円(1億円) |
括弧内は、両型とも大幅な賃上げを行う場合に適用される引き上げ後の上限額です。補助率はカタログ注文型が2分の1以下、一般型は中小企業が2分の1(最低賃金引き上げに係る特例の適用時は3分の2)、小規模企業者・小規模事業者再生事業者は3分の2です。
基本額どうしで比べると、従業員21人以上の規模では上限額が3倍から8倍の開きになります。投資額が大きいほど、型の選択が金額に直結します。
カタログ注文型には補助額の下限がある
カタログ注文型には、補助額が25万円未満となる申請はできないという下限が設けられています(借用に要する経費の場合を除く)。補助率が2分の1ですから、補助対象経費が50万円程度に届かない小さな買い物では、そもそも申請できないことになります。
上限額と、実際に受け取れる額は別のものです
補助金の記事では上限額が見出しに置かれますが、実際に受け取れる額は「補助対象経費 × 補助率」と「上限額」の小さいほうです。カタログ注文型にはもう一つ、経費の内訳に関する制約があります。
補助対象経費は製品本体価格と導入経費(設置作業、運搬費、動作確認、導入設定費用)の2つですが、導入経費は製品本体価格の2割が上限です。設置や設定に手間のかかる製品では、この上限を超えた分が自己負担になります。
さらにカタログ注文型では、製品ごとに補助上限額が設定されています。公募要領には、省力化製品の購入価格が製品ごとに設定された補助上限額の2倍を上回る場合、補助率は2分の1未満になると書かれています。「補助率2分の1」は上限であって、製品と価格の組み合わせによってはそれを下回ります。
従業員10名の企業が、製品本体500万円(税抜)、設置・設定費用150万円(税抜)で導入する場合を考えます。ここでは、その製品に設定された補助上限額が250万円以上で、補助率が2分の1のまま適用されるものとします。
- 導入経費の上限は、本体価格500万円の2割にあたる100万円
- 補助対象経費は 500万円 + 100万円 = 600万円(設置費用のうち50万円は対象外)
- 補助額は 600万円 × 1/2 = 300万円
- 支払う金額は税抜650万円に消費税を加えた715万円。消費税は補助対象外なので、自己負担は415万円
上限額の750万円には遠く届きません。「上限750万円」という数字から入ると、実際の自己負担額を見誤ります。
どちらの型でも、ソフトウェア単独では対象にならない
ここがこの記事の中心です。IT投資・DX投資として省力化投資補助金を検討している場合、まず確認すべき条件があります。
結論は両型で同じですが、根拠となる条文は別のものです。順に見ます。
カタログ注文型は「機械設備と一体」であることが条件
カタログ注文型の製品本体価格について、公募要領はこう定めています。
「専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具(測定工具・検査工具等)及び前述の機械設備又は工具・器具と一体として用いられる専用ソフトウェア・情報システム等の購入又は借用に要する経費」
ソフトウェアは対象に含まれますが、機械設備や工具と一体で用いられることが条件です。ソフトウェア単独では、この定義に当てはまりません。
一般型は「単価50万円以上の設備投資」が条件
一般型では、ソフトウェアの扱いが違います。対象経費は「専ら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築、借用に要する経費」とされており、一体要件は付いていません。
その代わり、単価50万円(税抜)以上の機械装置等の設備投資が1つ以上必要という別の要件があります。この設備投資が計画に含まれていなければ、要件を満たしません。加えて公募要領は、「汎用設備、パッケージソフト等のオーダーメイド性の無い設備・システムを単体で導入する事業は補助対象外」と明記しています。ただし汎用設備であっても、導入環境に応じて周辺機器や搭載する機能等が変わる場合や、組み合わせて導入することでより高い省力化効果を生む場合には、オーダーメイド設備とみなされます。詳しくは省力化投資補助金(一般型)はDX投資に使えるか|第8回公募の対象経費と自己負担額で整理しています。
つまり、クラウド会計や勤怠管理、受発注システムといったソフトウェアだけを導入する計画は、カタログ注文型では「一体要件」に、一般型では「設備投資要件」に引っかかります。行き着く先は同じですが、条文上の理由は別です。
ここからは筆者の見解です
この条件は、制度の設計思想から素直に読めるものだと考えています。省力化投資補助金が対象にしているのは「人手不足の解消につながる省力化」であり、想定されているのは現場の作業を機械に置き換える投資です。事務処理をソフトウェアで効率化する投資は、同じ「省力化」という言葉で語られていても、この制度の設計とは前提が違います。
ソフトウェア中心の投資であれば、デジタル化・AI導入補助金2026とは?旧IT導入補助金からの変更点と申請手順で扱っている制度のほうが素直に当てはまります。また、新製品・新サービスの開発を伴う投資については新事業進出・ものづくり商業サービス補助金はDX投資に使えるかで対象の線引きを整理しています。
要件の違い
| 項目 | カタログ注文型 | 一般型 |
|---|---|---|
| 労働生産性 | 初回は年平均成長率3.0%以上 2回目以降の申請は4.0%以上 |
年平均成長率4.0%以上 |
| 賃上げ | 上限引き上げを受ける場合のみ。事業場内最低賃金3.0%以上増加、給与支給総額6%以上増加 | 必須。1人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上増加、事業場内最低賃金が事業実施都道府県の最低賃金+30円以上 |
| 補助事業実施期間 | 交付決定日から原則12か月以内 | 交付決定日から17か月以内(採択発表日から19か月以内) |
| 事業計画期間 | 3回目の効果報告まで(3年間) | 3〜5年 |
| その他の基本要件 | — | 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表等 |
労働生産性の目標は、カタログ注文型の初回申請であれば3.0%と、一般型の4.0%より緩やかです。ただし2回目以降の申請では一般型と同じ4.0%が求められます。
賃上げの扱いは性格が異なります。カタログ注文型では、賃上げは補助上限額の引き上げを受ける場合の条件という位置づけで、引き上げを求めなければ必須ではありません。この点は、賃上げが基本要件に組み込まれている一般型と違います。
達成できなかった場合
カタログ注文型では、自己の責によらない正当な理由なく賃上げの目標を達成できなかった場合、補助額の減額が行われます。減額の対象になるのは、上限額の引き上げを受けた分です。
また、効果報告の時点で給与支給総額または事業場内最低賃金が実績報告時点の値を下回っていた場合、補助金の返還を求められることがあるとされています。投資が終われば完了ではなく、3年間の効果報告が続きます。
申請方法が根本的に違う
カタログ注文型は、中小企業と販売事業者が共同で申請する仕組みです。自社だけでは申請できません。対象リース会社を利用する場合は、中小企業・販売事業者・リース会社の三者による申請になります。
一般型は自社で事業計画を作って単独で申請します。この違いは手間の量というより、進め方の順序が変わることを意味します。カタログ注文型では、まずカタログに載っている製品と、それを扱う販売事業者を見つけるところから始まります。
スケジュールは公募要領に書かれていない
確認した時点で、どちらの公募要領にも具体的な受付開始日・締切日は記載されていません。カタログ注文型の公募要領には「申請受付時期及び終了時期は本事業のホームページにて公開します」とあり、一般型の第8回公募要領も同様の書き方になっています。
カタログ注文型については、令和9年3月末頃までの間に補助事業の申請を受け付けるとされています。またカタログへの製品登録は、公募受付期間終了の半年前程度まで随時行われるとされています。
日程は公式サイトに出ています。2026年9月12日時点で、一般型の第8回公募は公募期間が2026年8月18日〜10月16日、申請ポータルの受付開始が2026年9月18日10時。カタログ注文型は「交付申請随時受付中」の表記のみで、期間は示されていません。
公募要領だけを根拠にすると確定日付は分かりません。日程は改定されることもあるため、申請を予定しているのであれば、公式サイトで直接確認してください。
どちらを選ぶか
型の選択は、次の順序で判断すると整理しやすくなります。
- 導入したい製品がカタログに載っているか。載っていなければカタログ注文型は選べません
- 投資額が上限に収まるか。従業員21人以上で1,000万円を超える投資なら、カタログ注文型では上限に当たります
- 機械装置が計画の中心にあるか。ソフトウェアだけなら、どちらの型も要件を満たしません
- 販売事業者と組めるか。カタログ注文型は共同申請が必須です
補助金全体の見取り図は中小企業が使える補助金・助成金まとめで、補助金を前提としない予算の考え方は中小企業のDX予算はいくら必要かで扱っています。
申請を検討する前のチェックリスト
- 導入予定の製品は、事務局のカタログに登録されているか
- ソフトウェア単独の計画になっていないか(カタログ注文型は機械設備と一体であること、一般型は単価50万円以上の機械装置等が1つ以上必要)
- 補助額が25万円以上になる規模か(カタログ注文型の下限)
- 設置・設定費用は製品本体価格の2割以内か。超える分を自己負担できるか
- 消費税を除いた金額で、必要な自己負担額を計算したか
- 労働生産性を年平均3.0%以上(2回目以降の申請は4.0%以上)向上させる計画を立てられるか
- 上限額の引き上げを受けるなら、事業場内最低賃金3.0%以上・給与支給総額6%以上の増加を続けられるか
- 交付決定日から12か月以内に、発注から支払いまで終えられるか
- 3年間の効果報告を継続できる体制があるか
- 共同申請してくれる販売事業者の当てがあるか
- 申請代行を依頼する場合、その費用は補助対象外であることを織り込んでいるか
まとめ
カタログ注文型と一般型は、手軽さと自由度の違いというより、対象になる投資の規模と進め方が違う制度です。基本額で比べると補助上限額は従業員21人以上で1,000万円と3,000万〜8,000万円、申請方法はカタログ注文型が販売事業者との共同申請、実施期間は12か月と17か月。労働生産性の目標はカタログ注文型の初回のみ3.0%で、それ以外は4.0%です。賃上げは一般型では必須要件ですが、カタログ注文型では上限額の引き上げを受ける場合の条件です。
IT投資という観点では、ソフトウェア単独の導入計画はどちらの型でも要件を満たしません。ただし理由は別で、カタログ注文型はソフトウェアが機械設備・工具と一体で用いられることが条件であるため、一般型は単価50万円以上の機械装置等の設備投資が1つ以上必要であるためです。事務処理の効率化が目的であれば、別の制度を検討するほうが筋が通ります。
なお、どちらの公募要領にも受付開始日・締切日の記載はありません。日程は公式サイトで確認してください。