勤怠管理と法令|「管理職は対象外」が半分しか正しくない理由と、記録の保存年数

勤怠管理

「管理職は勤怠管理の対象外」という説明は、半分しか正しくありません。厚生労働省のガイドラインは確かに管理監督者を対象から外していますが、労働安全衛生法は別の条文で、管理監督者も含めた労働時間の状況を客観的な方法で把握することを事業者に義務づけています。さらに労働基準法でも、深夜労働の割増賃金は管理監督者に適用されるため、深夜の時間は把握しなければ賃金を計算できません。守備範囲の違う規定が重なっているので、片方だけを読むと逆の結論が出ます。

この記事では、勤怠管理に関わる条文とガイドラインを原典から読み、中小企業が最低限そろえるべき記録と、その保存年数を整理します。保存年数は「5年」と書かれている条文と「3年」と書かれている条文が混在しており、しかも経過措置で読み替えが入っています。ここも条文に当たって確認しました。

出典と確認日

  • 労働安全衛生法 第66条の8の3/労働安全衛生規則 第52条の7の3(e-Gov法令検索で原文を取得)
  • 労働基準法 第36条・第39条・第109条・附則第143条/労働基準法施行規則 第24条の7・第71条(同上)
  • 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省、平成29年1月20日策定)
  • 確認日:2026年9月13日

法令は改正されます。実際の運用にあたっては、必ず最新の条文と所轄の労働基準監督署の案内を確認してください。

勤怠管理を求めているのは1つの法律ではない

勤怠管理の根拠としてよく挙げられるのは、厚生労働省が平成29年1月20日に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。ただしこのガイドラインには、適用の範囲がはっきり書かれています。

労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者

労働基準法41条に定める者とは、いわゆる管理監督者などです。みなし労働時間制には事業場外みなしや裁量労働制が含まれます。つまりガイドラインの枠組みでは、これらの人は対象から外れます。ただしガイドライン自身が、対象外の労働者についても「健康確保を図る必要があることから、適正な労働時間管理を行う責務がある」と注記しています。何もしなくてよいという意味ではありません。

ところが、労働安全衛生法には別の条文があります。

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

これが労働安全衛生法66条の8の3です。ここで除外されているのは「次条第一項に規定する者」、つまり66条の8の4第1項が対象とする高度プロフェッショナル制度の適用者です(同項は健康管理時間が厚生労働省令で定める時間を超える者という書き方をしています)。管理監督者も裁量労働制の対象者も、この条文では除かれていません。

2つの法律は目的が違う

労働基準法の側は、割増賃金を正しく払うために労働時間を把握させる仕組みです。だから労働時間・休憩・休日の規定が適用されない管理監督者は、その枠から外れます。ただし41条による除外は労働時間・休憩・休日についてのもので、深夜業の割増賃金(37条4項)は管理監督者にも適用されます。深夜に働いた時間は、管理職であっても把握が必要です。

労働安全衛生法の側は、長時間労働者への医師の面接指導を実施するための把握です。健康を守る話なので、賃金の計算対象かどうかとは関係なく、管理監督者も裁量労働制の対象者も含まれます。

ここからは筆者の見解です。中小企業の実務では、この2つを分けて別々の仕組みで管理する意味はほとんどありません。管理職も含めて全員の時間を同じ方法で記録し、賃金計算に使う範囲だけを分けるほうが、運用としても説明としても簡単です。

「客観的な方法」とは具体的に何か

労働安全衛生法66条の8の3が言う「厚生労働省令で定める方法」は、労働安全衛生規則52条の7の3に書かれています。

法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。

タイムカード、パソコンの使用時間の記録が例として挙がっています。「その他の適切な方法」という受け皿はありますが、原則は客観的な記録です。

ガイドラインの側も、始業・終業時刻の確認と記録の原則的な方法を2つ挙げています。1つは使用者が自ら現認して記録すること。もう1つは「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」です。

自己申告制は例外で、条件がつく

紙の出勤簿に本人が時刻を書き込む方法は、自己申告制にあたります。ガイドラインはこれを「やむを得ず行わざるを得ない場合」の扱いとし、使用者が講ずべき措置を挙げています。主なものは次のとおりです。

  • 自己申告を行う労働者に対し、適正な自己申告について十分に説明すること
  • 実際に労働時間を管理する者に対しても説明を行うこと
  • 自己申告した労働時間と実際の労働時間が合致しているか、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
  • 事業場内にいた時間と自己申告した時間に乖離がある場合、その理由を報告させる仕組みを設けるときは、報告が適正に行われているかを確認すること
  • 労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと

最後の点は、時間外労働の上限を実質的な申告の上限として運用しているような場合を想定したものです。自己申告制は、単に紙に書かせれば済む方法ではなく、実態との突き合わせまで含めて事業者の責任になります。この手間を考えると、客観的な記録を取る仕組みに寄せたほうが結果的に軽いというのが、筆者の見立てです。

保存年数は条文ごとに違い、経過措置も入っている

ここが実務で混乱しやすいところです。根拠ごとに整理します。

対象 根拠 条文上の年数 当面の扱い
労働者名簿・賃金台帳・労働関係の重要書類(出勤簿など) 労働基準法109条 5年 当分の間3年(附則143条)
労働時間の状況の記録 労働安全衛生規則52条の7の3第2項 3年 3年
年次有給休暇管理簿 労働基準法施行規則24条の7 5年 当分の間3年(同規則71条)

労働基準法109条は「五年間保存しなければならない」と定めていますが、同法の附則143条に次の読み替えがあります。

第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。

年次有給休暇管理簿も同じ構造です。労働基準法施行規則24条の7は「当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない」と定めていますが、同規則71条で、当分の間これを3年間と読み替えることになっています。

したがって、現時点の実務上の答えは「3年」です。ただし「当分の間」がいつまでなのかは条文に定めがありません。労働基準法109条の保存期間は2020年の改正で3年から5年に延ばされ、そのうえで附則により当分の間3年に据え置かれている、という経緯です。読み替えが終われば5年の運用になります。3年で自動削除する設定を組むより、5年残せる置き場所を先に用意しておくほうが安全です。

記録に何が入っていなければならないか

ガイドラインは、賃金台帳の調製についても触れています。労働時間に関して適正に記入しなければならない事項として挙げられているのは、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数です。

打刻の記録だけでは、これらは出そろいません。1日の労働時間から法定労働時間を超えた部分を切り出し、休日労働と深夜労働を分けて集計する処理が必要になります。筆者の見立てでは、表計算ソフトでの運用が重くなるのは打刻の記録ではなく、この切り分けの部分です。

時間外労働の上限は協定の書き方で決まる

36協定を結べば時間外労働をさせられますが、上限があります。労働基準法36条3項・4項が定める限度時間は、1か月45時間、1年360時間です(1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月を超える場合は、1か月42時間、1年320時間)。

臨時的な特別の事情があるときは特別条項を設けられますが、こちらにも枠があります。ここは条文の置き場所を分けて理解する必要があります。

協定に定められる枠(36条5項)は、1か月について時間外労働と休日労働を合わせて100時間未満、1年について時間外労働が720時間を超えない範囲、そして限度時間を超えられる月数が1年について6か月以内、という3点です。

実際に働かせてよい時間の上限(36条6項)は、協定の内容とは別に使用者が守るべきものとして定められています。1か月について時間外労働と休日労働を合わせて100時間未満(2号)、対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間に直前の1〜5か月を加えたそれぞれの期間について、時間外労働と休日労働を合わせた1か月あたりの平均が80時間を超えないこと(3号)です。この2つは特別条項の有無にかかわらず、36協定を結んでいる事業場すべてに適用されます。

注意したいのは、100時間未満と80時間平均の2つが「時間外労働と休日労働を合わせた時間」で判定される点です。時間外労働だけを見ていると、休日出勤の分を取りこぼします。複数月平均の計算は2か月・3か月・4か月・5か月・6か月のすべての区切りで見る必要があり、月次の集計表を並べただけでは判定できません。

年5日の年次有給休暇を取らせる義務

労働基準法39条7項は、年次有給休暇が10労働日以上与えられる労働者について、そのうち5日を基準日から1年以内に時季を定めて与えなければならないと定めています。付与日数が10日未満の労働者は対象外です。

この義務があるため、年次有給休暇管理簿の作成も必要になります。労働基準法施行規則24条の7が求めているのは、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした書類です。パートやアルバイトでも、勤続年数と週の所定労働日数によっては付与日数が10日以上になり、対象に入ります。正社員だけを見ていると漏れます。

中小企業が最初にそろえるもの

ここまでの条文を、実務の持ち物に置き換えると次のようになります。

  1. 始業・終業時刻の客観的な記録(労働基準法のガイドラインが求めるもの。管理監督者とみなし労働時間制の対象者は枠外)と、全員分の労働時間の状況の記録(労働安全衛生法が求めるもの。管理監督者と裁量労働制の対象者を含む)
  2. 労働日数・労働時間数・休日労働・時間外労働・深夜労働を分けた月次の集計
  3. 年次有給休暇管理簿(時季・日数・基準日)
  4. 36協定の範囲内に収まっているかを月ごとに確認できる形(複数月平均を含む)
  5. これらを3年、できれば5年残せる保存先

この5つがそろっていれば、形式としては足ります。逆に、打刻の記録だけがあって集計と年休管理簿がない状態は、記録があるのに要件を満たしていない状態です。

仕組みと費用の確認先

ここまでの要件を勤怠管理システムでどう満たすかは勤怠管理システムとはで、製品ごとの料金は勤怠管理システムの選び方で扱っています。導入費用に補助金を使う場合、交付決定の前に契約すると対象外になります。順番はデジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)の解説で確認してください。

確認のためのチェックリスト

  • 管理監督者・裁量労働制の対象者の労働時間の状況を把握しているか
  • 把握の方法は客観的な記録か。自己申告制なら、実態調査と補正の手順があるか
  • 賃金台帳に労働日数・労働時間数・休日労働・時間外労働・深夜労働が分けて記入されているか
  • 年次有給休暇管理簿を作成しているか。付与日数10日以上のパート・アルバイトを含めているか
  • 36協定の特別条項について、休日労働を含めた100時間未満と複数月平均80時間を確認できるか
  • 記録の保存先は3年分を確実に、将来の5年にも耐える形になっているか

まとめ

  • 「管理職は対象外」は労働基準法のガイドラインの話で、労働安全衛生法66条の8の3は管理監督者も裁量労働制の対象者も含む。除かれるのは高度プロフェッショナル制度の対象者だけ
  • 把握の方法の原則は客観的な記録。自己申告制は例外で、説明・実態調査・補正・申告を阻害しないことまでが事業者の責任
  • 保存年数は労働基準法109条が5年、附則143条により当分の間3年。労働安全衛生規則の労働時間の状況の記録は3年。年次有給休暇管理簿は5年で当分の間3年
  • 打刻の記録だけでは足りず、労働日数・時間数・休日・時間外・深夜を分けた集計と年次有給休暇管理簿まで必要
  • 特別条項の100時間未満と複数月平均80時間は、休日労働を含めて判定する

出典

※本記事は2026年9月13日時点の条文と資料をもとに整理したものです。個別の事案の判断は、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

IT業界で30年近く、大企業向けCRM・CMS開発や証券系システム開発に携わってきたエンジニア。葬儀会社をはじめとする中小企業のDX支援の現場で、「ペーパーレスが進まない」「FAXが手放せない」といったリアルな壁を数多く見てきた経験をもとに、"現場で本当に使えるDX情報" を発信しています。

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